人というのは、不思議で満ちています。

そして人というのは、不思議な力があります。

 

悩んでいる時、

苦しみの渦の中にいる時、

僕たちはその力を見つけることが出来ません。

 

なぜだかその時、

その不思議な力にアクセスが出来ません。

 

「最近、一人で泣いてしまうんです。

それもなぜ涙が出てくるか分からないんです。」

 

そうやってまだカウンセリングルームに入ってきたばかりなのに、

その女性の瞳からは涙が溢れて、

ホロホロと涙を流されました。

 

涙の理由を聞くと、

ご本人も「自分でもやはりわからない。」と。

 

悩み、苦しみ、

仕事で大変な思いをし、

孤独にさいなまれ、

自分を責め、

気持ちが溢れてしまったのです。

 

そして、そのような苦しみの中にいる時、

僕たちはその奥にある本来の力にアクセスできません。

 

だから少し誰かのお手伝いがいります。

 

その涙と一緒に居てもらい、

少しお手伝いをしました。

 

「目の前に仕事を頑張ってきてた自分がいます。

自分の気持ちすら分からなくなってしまう程、

がんばってきた彼女。

今も苦しみ、ここに来るだけで、

話すだけで気持ちが溢れてしまう彼女。」

 

「今、ここからその彼女を見ると、

どのように見えますか?

彼女は何が苦しいでしょうか?」

 

すると、涙がまた溢れてきた。

 

「涙を止めないで。」

 

頑張って自分の苦しみに寄り添おうとするから、

自分の気持ちを、苦しみを見つめようとするからこそ、

涙が出てくる。

 

「悲しそう…。」

 

そうなんとか言葉にする。

 

「その悲しみは、どこからきている感じがしますか?」

「体の下の方からでしょうか?胸の辺りからでしょうか?

それとも胸の奥の方からでしょうか?お腹の辺りでしょうか?」

 

悲しみの源泉を探ってみる。

自分の心の源泉に気づけるように。

 

すると…

 

「体の下の方から湧き出てくる気がします。」

 

「その源泉は、もっと下の方にある気がしますか?それとも…?」

 

「そうですね。奥の方にある気がします…。」

そう答えながら、

涙は変わらずその瞳から流れている。

 

「あぁ…奥の方からでしたか…。

ようやく見つけることが出来ましたね。

悲しみがずっとそこから流れていたのに、

湧いてくる場所を見つけられずに。

苦しかったですものね。」

 

源泉に触れる。

悲しみの、

苦しみの源泉に触れる。

 

悩み、苦しんでいると、

それが難しい。

自分がどんな気持ちなのかもわからなくなってしまう。

 

でも、気持ちには湧水のように源泉がある。

 

そこに触れた時、

それは湧水のように濁りなく、

綺麗なままだということに気づける時がある。

 

「今、涙のその源泉に触れて、

流れる涙は、温かくありませんか…?」

 

「はい…。」

 

「不思議ですね…。」

「その涙とその温かさともうちょっと一緒に居てあげましょう。」

 

気持ちには源泉がある。

湧き出てくるだけの源泉がある。

 

そこに触れた時、

何が解決するかは分からない。

 

でも、そこには源泉がある。

 

苦しみだけでなく、

自分の中にある穏やかさ、

柔らかさ、

思いやり、

優しさ、

愛情、

感謝、

そんな気持ちに触れたから、

何が変わるかもわからない。

 

事実、それでも苦しみはなくならない。

 

そんな時も沢山ある。

 

でも、それでも、

それは何かの意味になる時がある。

 

生きる力になる時がある。

 

その彼女は、

先日卒業した。

 

何かをしたのか?

と言われると、

たいしたことは何にもしていない。

 

でも、彼女は、

いつの間にか元気になり、

最初に言っていたこうしたいということも、

僕が援助をするまでもなく、

自ら勇気をもって取り組んでいた。

 

「なんでそんなことが出来るようになったんですか?」

 

思わずそんなことを聞いた。

でも、本人はあっけらかんと、

「分からないです。」と答えた。

 

あとで振り返った時、

僕は、目の前のその人を信頼していなかったことに気づいた。

 

自分が何とかしなくても、

人は自分の力で前を向く。

 

それを忘れてはいけないのだ。

それを僕は覚えておかなくてはいけないのだ。

 

人には、不思議な力がある。

 

そう、人には不思議な力がある。

 

自分で分からなくても、

不思議と今まで出来なかったことも、

出来てしまう時がある。

 

そう、あなたにも、

そして僕にも。

僕らにも。

 

そうだ。

不思議な力があるのだ。

 

きっとあるんだ。

 

そうじゃなきゃ、

説明がつかない。

 

この世の中は、不思議で満ちている。

きっと僕たちは、

それも忘れてはいけないのだ。
自分じゃ説明できないことも、

自分には起こりえるのだ。

野川  仁
・元引きこもりの心理カウンセラー
・JCA カウンセリング・傾聴スクール 講師 
・(一社)日本心理カウンセリング協会 代表理事
現在は、都内のクリニックでカウンセリングも行っている。

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