あるひきこもりのお話。
彼は、朝寝て、昼に起きる。
それが彼の日常だ。
家族とは会いたくない。
だって、めんどくさいから。
朝寝ていれば、会う事もない。
家族がドアを開けて会社へ行く。
そのドアを閉める”ガチャン”という音、
それが朝起きる合図だ。
その合図で彼は、おきて、
PCを立ち上げて、仮想世界に入る。
家族の誰ともほとんど話さずに、
仮想世界ではちょこちょこといつも通り話をする。
でも、その言葉に温かみはない。
だってチャットだからさ。
でも、話をしないよりはましさ。
と彼は思う。
うつろな目で、PC画面を見つめて、
楽しいというよりも、
他にやることがないのだ。
やりたいと思えることがないのだ。
そして、怖いのだ。
自分の人生と向き合うのが。
失敗するのが、怖いのだ。
その自分と向き合うことが怖いのだ。
心のどこかでそんなことわかっているさ。
このままじゃダメだって。
と彼は思う。
でも、分かっていても、
心は別物で、なかなか一歩が出ないのだ。
「根性がないだけだろ?」
そういう奴がいる。
そんな奴には、一度はこういってやりたい。
「お前一度引きこもってみろよ。」って。
「楽でいいよな。ゲームばっかりして、親のすねかじれて。」
そういう奴がいる。
その度は、彼は思う。
「あんたは、何にもわかっていない…。」と。
大学までみんなと同じレールに乗っていて、
同じ方向に走っていたのに、
気づいたらレールを外れている自分。
戻ろうとしても先にみんないってしまって、
戻れない怖さ。
その怖さを、「根性がないだの、いいよな親のすねかじれて。」
と言う彼らは知らない。
ただ、家にいる。
働いていない。
それだけなのに。
自分の存在が無意味に、無価値に思える
怖さを彼らは知らない。
誰にも必要とされていると感じない。
この世に生きていてもいいのかもわからない。
ただ、働くことへの絶望と、
生きることへの虚しさを抱える気持ちを彼らは知らないんだ。
と、彼は思う。
でも、彼もまた知らないのだ。
すねをかじっている親が、
どんなにあなたを心配しているか。
家族がどんなに悲しみを抱えているのかを。
どんなに自分を責めているのかを彼もまた知らないのだ。
ひきこもりの日々は、そんなすれ違いの連続だと、
彼を見て僕は思う。
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